水戸地方裁判所 昭和28年(ワ)9号 判決
原告 中島信民
被告 国
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
第一当事者の申立
一、請求の趣旨
別紙目録記載の土地に生立する楢、櫟の根株は原告の所有であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。
二、答弁の趣旨
原告の請求を棄却する。
第二当事者の主張
一、請求の原因
別紙目録記載の山林に生立する根株(その数量は同目録記載の通り)は同山林素地とともに原告の所有であつたが、訴外茨城県知事は右の山林素地につき自作農創設特別措置法第三十条の規定にもとずき買収期日を昭和二十二年七月二日と定めて買収処分をした。ところが被告は右の買収処分により前記根株も被告の所有に帰したものとしてこれに対する原告の所有権を争うので、同所有権存在の確認を求める。
二、答弁
(イ) 原告主張事実のうち、その主張の根株がその生立する山林素地とともに原告の所有に属していたことは認める。
(ロ) 訴外茨城県農地委員会は別紙目録記載の山林につき昭和二十二年五月二十五日自作農創設特別措置法第三十条により買収期日を同年七月二日と定めて買収計画を樹立し訴外茨城県知事は同計画にもとずき同年十月二十六日附買収令書を発行し、同年十一月十四日これを原告に交付して買収処分をなした。ところで同山林に存在する原告所有の根株は立木に関する法律の適用ある立木又は同法の適用を受けない樹木の集団及び取引価値のある個々の樹木で土地と別個に評価して明認行為その他の公示方法によつて取引する慣行のあるもののいずれにも該当せず、又前記買収に際し根株を買収から除外する旨の明示の意思表示もないのであるから、本件根株は前記土地と一体をなすものとして前記買収処分によつて土地とともに国の所有に帰したものである。
三、右(ロ)の主張に対する原告の主張
被告の主張事実のうち、前記山林の素地についてその主張するような経過のもとに買収手続がなされたことは認めるが、その余の点は否認する。前記根株は原告において植林して来た楢、櫟の上木を昭和二十年及び翌二十一年のそれぞれ暮頃伐採し、前記買収手続がなされた昭和二十二年当時は既に一年生及び二年生の新芽を具えていたもので、このような竹木は自作農創設特別措置法の建前からすれば素地とは別個のものとして買収の対象たるべきものである。のみならず一般の取引においても根株は土地と独立して売買される慣習が存し通常はその慣習に従つて取引されているのである。従つて素地に対する買収処分の場合でも根株は買収の対象には含まれない。要するに素地に対する前記買収処分により原告が根株の所有権を失ういわれはない(立証省略)。
三、理 由
別紙目録記載の山林の素地並びに当該土地に存在する楢、櫟の根株はもと原告の所有であつたところ、訴外茨城県知事は、茨城県農地委員会が自作農創設特別措置法第三十条第一項により、買収期日を昭和二十二年七月二日と定めて樹立した右土地の素地に関する買収計画にもとずき、昭和二十二年十月二十六日附買収令書を発行し、昭和二十二年十一月十四日これを原告に交付したことは当事者間に争がない。ところで本件争点は前記根株は土地の一部として右買収処分の対象となつているかどうかに在るのでこの点について審究する。原告本人の供述、検証の結果並びに弁論の全趣旨を綜合すると、原告は別紙目録記載の山林に楢及び櫟を植林しこれを薪炭林として管理して来たが、一部は昭和二十年、残りは翌二十一年のいずれも暮頃伐採し、その根株からは翌春新芽が出て前掲買収計画が樹立された昭和二十二年五月には一年生及び二年生の枝木が生立していたことが認められる。(櫟や楢は元来その上木を伐採して製炭の原木又は薪とするものであるが、伐採した跡には新芽が出てそれが八、九年も経つと又伐採し得る状態になる。原告が所有権の確認を求めている根株とは現に七、八年生に達している上木を含めていうのであることは弁論の全趣旨によつて明らかである。)そしてこのように一年生乃至二年生の新芽を有する楢及び櫟の根株は採草乃至薪炭の資源として自作農創設特別措置法同施行令に所謂竹木たるを失わないものと解すべきである。又この根株が立木に関する法律による登記のある立木でないことは弁論の全趣旨に徴し明らかである。又右の根株と前記山林の所有権はともに従来原告に属していたこと前摘示の通りである。このように立木に関する法律による登記のない竹木で、竹木の所有者と土地の所有者とが同一人である場合には一般に竹木は土地の一部として、土地(素地)の所有権が移転するときは、反対の意思表示がないかぎり、これとともに所有権が移転するものと考えるのが相当である。自作農創設特別措置法施行令第二十五条も右の見解を前提とし竹木の存する未墾地については価格の算定にあたり竹木の価格を素地の価格に加算することを認め以て買収の対価を適正ならしめんとしているものと考えられる。従つて前記県農地委員会が前記買収計画を樹立するに方り、右根株を特に買収から除外する旨の決議がなされたという点についてはこれを認めるに足る資料のない本件にあつては、この根株はそれの存する土地の一部として買収計画における買収の対象となつて居り、根株に対する原告の所有権は買収期日たる昭和二十二年七月二日素地たる土地とともに消滅したこととなる。原告は一般取引において根株は土地と独立して売買される慣習があるから土地に対する買収処分にあつては根株は買収の対象とならない旨主張するが、右のような根株のみの売買ということが一般に行われているとしても、このことからして根株の存在する土地は根株とは別個に土地のみ売買され、土地(素地)の所有権は買主に移転しても、根株の所有権は特別の事情のないかぎり売主に留保されるものとする慣習があるという結論にはならず、前記認定に何ら影響するものではない。
以上の通りであるから、別紙目録記載の山林に存在する根株の所有権確認を求める原告の本訴請求は失当として棄却することとし、訴訟費用は敗訴原告の負担とし主文の通り判決する。
(裁判官 多田貞治 森松万英 石崎政男)
(目録省略)